帰無仮説を採択できる?棄却できないときの結論とは?【統計学】

はじめに
統計学の仮説検定において、帰無仮説が棄却できなかった場合どうなるのでしょうか?
Q & A
帰無仮説を採択することできる?
❌ 帰無仮説を採択することはできない棄却できないときの結論は?
🔺 何も言えない。否定も肯定もできず、結論はでない。理由
有限個の標本から、帰無仮説の否定は(ほぼ)できるが、肯定はできないため。
上記の理由の意味と、そこから疑問に対する答えにたどり着くまでの流れを詳しく説明します。
説明の流れ
- 背理法のロジック
- 統計的(確率的)要素を取り除き、単純化したものでの説明
※仮説検定では、統計的要素を含み理解しにくいため- 仮説検定との対応関係・変化点
- 背理法に統計的要素を加え、前後の対応関係・変化点を説明
- 仮説検定のロジック
- 仮説検定で結論を出すロジックを説明
- 最初の疑問に対する答えとその理由を説明
注意
- イメージしやすいよう、かみ砕いた表現を用いているため、厳密には正しくない表現が含まれる可能性があります。
- 本記事では「背理法=仮説検定から統計的要素を取り除いたもの」として扱っています。
1. 背理法のロジック
以下の例題を使って、背理法の説明を行います。
例題
袋の中に複数の玉が入っているが、色がすべて○であるのか疑わしい
※ 可能性のある色は○と●の2パターンのみとする
全体の流れ
背理法を行う流れは以下の通りです。
- 手順1. 命題(証明したいこと)を立てる
命題:「袋の中身はすべて○、というわけではない」 - 手順2. 命題の否定を仮定する
仮定:「袋の中身はすべて○である」 - 手順3. 論証を進める
詳細は後述 - 手順4. 仮定を否定する(=命題を肯定する)
仮定を否定:『仮定「袋の中身はすべて○である」は正しくない』
論証の進め方
全体の流れ(上記)の中の「手順3. 論証を進める」の詳細について取り扱います。
結論を導く手順
- 手順a. 仮定(命題の否定)を言い換える
- 手順b. 手元の情報で検証を行う
手順a. 仮定(命題の否定)を言い換える
手順2での仮定を言い換え(論証を進め)、
仮定の言い換え
- 手順2. 仮定 (命題の否定)
「袋の中身は すべて○ である」- 手順a. 仮定の言い換え
「取り出すと 必ずすべて○ である」- 手順b. 仮定の言い換えの否定
「取り出すと 1つ以上● の場合がある」↓
検証内容:仮定の否定材料「●」がないか探すポイント:「すべてが○である」の否定
- ❌「 すべて が●である」
- ✅「 1つ以上 が●である」
手順b. 手元の情報で検証を行う
仮定(命題の否定)を言い換えた内容の否定材料の有無について、
否定材料(●)がみつかったとき
このパターンでは、すぐに結論がでます。
結論までの流れ
i. 仮定の言い換えの否定「取り出すと1つ以上●の場合がある」が肯定される
ii. 仮定が否定される
iii. 命題が肯定される
ポイント
数個 取り出しただけで仮定を 否定 できる可能性がある
否定材料(●)がみつからなかったとき
このパターンでは、袋の中身を すべて 確認しなければ結論が出ません。
結論までの流れ
- 袋の中身をすべて
確認してい なかった ら…
- 袋の中身にまだ否定材料が残っているかもしれない
- 「取り出すと1つ以上●になる」可能性が残っている
否定も肯定もできない- 袋の中身をすべて確認して いた ら…
- i. 仮定の言い換えの否定「取り出すと1つ以上●の場合がある」が否定される
- ii. 仮定が肯定される
- iii. 命題が否定される
ポイント
すべて 取り出さないと仮定を 肯定 でない
2. 背理法と仮説検定の対応関係・変化点
背理法のロジックに統計的(確率的)要素を付け加え、
対応する項目
背理法と仮説検定の項目での対応関係は以下の通りです。
背理法 | 仮説検定 | |
---|---|---|
証明したい内容 | 命題「袋の中身はすべて○、というわけではない」 | 対立仮説「母集団の統計値はXではない」 |
証明したい内容の否定 | 仮定「袋の中身はすべて○である」 | 帰無仮説「母集団の統計値はXである」 |
否定の言い換え | 「袋から取り出すと必ずすべて〇である」 | 「母集団から標本を取得すると、検定統計量□は必ず ほぼ すべて に入る」 |
否定の言い換えの否定 (検証内容) | 「袋から取り出すと1つ以上●の場合がある」 | 「母集団から標本を取得すると検定統計量□は 無視できない確率で から外れる」 |
専門用語との対応
「内」 = 採択域(信頼区間)
「外」 = 棄却域
統計的(確率的)要素が追加された文言
- 「すべて」 + 統計的要素 「 ほぼ すべて」「高い確率で」
- 専門的な言い方:「信頼水準の確率で」
仮説検定では99%、95%が設定されることが多い - 文言を含む項目:否定の言い換え
「母集団から標本を取得すると、検定統計量□は必ず ほぼ すべてに入る」
- 専門的な言い方:「信頼水準の確率で」
- 「1つ以上」 + 統計的要素 「無視できない確率で」「低くない確率で」
- 専門的な言い方: 「有意水準・危険率 を超える確率で」
仮説検定では1%超、5%越が設定されることが多い - 文言を含む項目:否定の言い換えの否定(検証内容)
「無視できない確率でから外れる」
- 専門的な言い方: 「有意水準・危険率 を超える確率で」
- 「否定」 + 統計的要素 「ほぼ 否定」
- 専門的な言い方: 「棄却」
- 「肯定」 + 統計的要素 「ほぼ 肯定」
- 専門的な言い方: 「採択」
3. 仮説検定のロジック
仮説検定でも背理法とロジックはほとんど変わりません。
論証の進め方
仮説検定でも、背理法のときと同様の手順で論証を進め、結論を導きます。
結論を導く手順
- 手順a. 帰無仮説を言い換える
- 手順b. 手元の情報で検証を行う
帰無仮説を言い換える
帰無仮説を言い換え(論証を進め)、
※ 手順の番号は、背理法と対応させています。
帰無仮説の言い換え
- 手順2. 帰無仮説
帰無仮説「母集団の統計値はXである」- 手順a. 帰無仮説の言い換え
「母集団から標本を取得すると 検定統計量□は必ず ほぼ すべて 内に入る」- 手順b. 帰無仮説の言い換えの否定
「母集団から標本を取得すると 検定統計量□は 無視できない確率で から外れる 」↓
検証内容:帰無仮説の否定材料「検定統計量□が から外れる標本」がないか探す
検証を進め、結論を出すには
帰無仮説を言い換えた内容の否定材料の有無について、
否定材料がみつかったとき
このパターンでは、すぐに結論がでます(背理法のときと同様)。
結論までの流れ
i. 仮説の言い換えの否定が ほぼ 肯定される
ii. 帰無仮説が ほぼ 否定される
iii. 対立仮説がほぼ肯定される
ポイント
1つでも否定材料が見つかれば、帰無仮説をほぼ否定できる
= 帰無仮説の 棄却が可能
否定材料がみつからなかったとき
このパターンでは、結論が出ません。
理由
他の標本の検定統計量□を確認したら、否定材料が見つかるかもしれないため。
では、(ほぼ)すべての標本の 検定統計量を確認すればよい?
不可能
検定統計量□は無数に取得できるため。(ほぼ)すべて の確認は実質不可能。
ポイント
有限個の標本から、帰無仮説の肯定は不可能
= 帰無仮説の 採択は不可能
まとめ
背理法のロジックに確率的要素を加える形で、
Q & A
帰無仮説を採択することできる?
❌ 帰無仮説を採択することはできない棄却できないときの結論は?
🔺 何も言えない。否定も肯定もできず、結論はでない。理由
有限個の標本から、帰無仮説の否定は(ほぼ)できるが、肯定はできないため。